ミスターエマニエルからポストカードが届きました。
意外とマメな人なんですね。封筒を開けると、変てこなカードが出てきました。
よく見ると・・・というか、よく嗅ぐと。
うすく巧みにスライスした、化石化したカマンベールのカードです。
なんだかうすく切ったべらべらの凍み豆腐みたいです。
文面は以下の通りです。
モンブラン様
香り漂うコーヒーをお楽しみのことと思います。
小生も庶民の一助になれてささやかな幸福を感じております。
お会いして感じたことなのですが・・・
貴殿には貯蓄という密かなる至福にとぼしい処があると推察しました。
そこで貴殿の残り少ない将来がより豊かになると思われる品を用意しました。
興味ありませんか。
では、小岩井の柵の辺りでお待ちしております。
エマニエル堂店主拝
・・・勝手な人です。しかし、小岩井の柵の辺りって、どこ?
でも出かけました。貯蓄というぼくには無縁の言葉に魅せられて。
写真は春に撮ったものです。今はまだ雪でどこもまっ白。
柵も白いのでさっぱりわかりません。すると・・・
売店近くでプラカードを持って立っている人がいます。
ベニヤ板に赤い文字で「柵」と書いてます。
「お待ちしてました、モンブランさん」
「どうも。探しましたよ」
「さっそく中へ入りましょう」
二人は売店の奥、カウンターに腰掛けホットミルクを飲みました。
「人生には・・・至福が必要です」哲学者のようなことを呟きます。
つづけてミスターエマニエル曰く、
「あるきっかけがその人の人生を変えることがあるものです・・・」
「どういうことですか」
「まずはご覧ください」
おもむろに風呂敷包みを解きました。
「金庫です」
「見ればわかります」
「もうひとつ・・・」
「金庫2です」
「あの、金庫に1とか2があるんですか」
「むろん。1が表。2が裏になります」
「つまり、使い分ける?」
「その通り。人生にはふたつの金庫が必要です。1は公費。2は私費です。
俗に、裏金とも言いますが・・・」
「そんな・・・ぼくはまっとうな人間です」
「そういう意味ではありません。とかくこの世は1だけで終わってしまう。
そこで・・・ここだけの話ですが・・・2があると、潜在能力が開花するのです」
「はぁ」
「目の前に自分のためだけの金庫がある。金庫があればお金を入れたくなる。
これは本能というものです。いかがです?」
「しかし、もともとお金のない者に必要でしょうか」
「モンブランさん!あなたのその不健康な心がいかんのです!これは金庫療法なのですぞ!」
「はい!」・・・思わず返事をしていました。
「お買い上げありがとうございます」
ミスターエマニエルはこの柵のずっと先の方へ帰っていきました。