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  • 2012.05.04 Friday
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蔵屋物語 第六話

「御宿きゃっぱれ」 栗山匙太郎 作





蔵之介はキツネのタクシーに乗って、谷間の温泉宿へ赴いた。
深い落ち葉と冷たい渓流の響きの中に、その宿はあった。
「御宿きゃっぱれ」・・・天保の時代からほそぼそと営まれてきた古い宿には、
老いた白猫の橋蔵が住みついている。
共に同じ蔵一族の出である。





いつもなら橋蔵は階段の広い踊り場のベンチにうずくまっているのだが、
河童の間に大福のように眠っていた。
「橋蔵さん、久しぶりでがんす」
蔵之介は毛の抜けた白い耳元にささやいた。
「まんず・・・久しぶりでがんす」
橋蔵は寝ぼけながら、ゆるりと応じた。





「よぐ来やんした。湯っこさ、へるべ」
ふたりは客のいない昼過ぎのがらんとした湯船に浸った。
「本この商いはどでがんす」
「さっぱりでがんす」
高窓の曇りガラスの外を寒い風の音が過ぎていた。
「橋蔵さん。あんばいはどでがんす」
「ぼちぼちでがんす。いっつも眠ぐなりやんす」
ふたりは湯煙に霞む天井を仰ぎながら、ため息ともつかない声を洩らした。





それからふたりは脱衣所のカゴの中で寄り添って寝た。つかの間の幸せだった。
「そろそろけりやんす」
「また来てけろな」
玄関先の手洗鉢の水の上に、雪がひとひら、ふたひら舞い落ちてきた。
「冬でがんすな」
「んだなっす」
蔵之介はぼそっと応えて、待たせていたキツネのタクシーに乗り込んだ。

「お客さん、泊まらねのすか」
「けりやんす。心っこもぬぐまりやんしたし・・・」
その夜、谷間はしんしんと白く包まれていった。

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  • 2012.05.04 Friday
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コメント
沁みる 話っこでがんす 
お湯っこに 入りたーい
  • モジョリコ オホホ
  • 2011/11/15 8:18 AM
そでがんす。しみじみ湯っこさへる冬でがんす。
  • モンブラン
  • 2011/11/15 10:41 AM
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