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蔵屋物語 第五話

 「名探偵現わる」 栗山匙太郎 作







峠はすでに雪だった。
危険な崖の路を一台のキャディラックがフルスピードで駆け抜けていた。
そのハンドルさばきは見事という他はない。
男は雪の峠をまばたき三十回ほどで越え、店じまいをしようとしていた
蔵屋の前で車を止めた。

「失礼・・・明智小五郎です」







「本こで読んだ人だ」
蔵之介は思わず声を洩らした。ネクタイの柄がこの町では見たこともないモダンなものだった。
「サインは後でしましょう。実はあなたにお願いがある」
「なんでがんす」
・・・これこれしかじか。
「わかりやんした。だば、その高級車、裏さ隠しエ」
「ありがとう。蔵之介君」
・・・それから蔵之介は店のカーテンを閉め、灯りも消した。
明智小五郎はそっとカーテンのすき間から前の店の様子を窺いはじめた。
栗山書房という古本屋である。まだ蜜柑色の灯りをぼんやりと滲ませていたが、
誰もいない。すると焼き芋の袋を抱えて一人のおやじが戻ってきた。







「まちがいない。あの男だ」
明智小五郎は静かに断定した。
「あの男って、誰でやんす」
「蔵之介君。あの男こそ、怪人二十面相なんだよ」
「あったな、へぼおやじがすか」
古本屋の奥では、その男はふはふは焼き芋をうまそうに頬張っていた。
すかさず明智小五郎がその現場に踏み込んだのは言うまでもなかった!







だが・・・

怪人二十面相はバッタのごとくそのマントをひろげ、
夕闇の通りを一陣の風と共に消え去ったのである。
「ハッ、ハッ、ハッ〜。明智小五郎。よくぞ見抜いた!だが、私を捕らえるには百年早いわ!
 ハッ、ハッ、ハハハ〜」

「無念だ。蔵之介君」
明智小五郎はむなしく通りの夕空を仰いで言った。
「そのでんびの傷っこ、どうすたべ」
「この額を、あいつが踏んづけていったのさ」
そして明智小五郎は静かに高級車でこの町から去っていった。

金星が殊のほか美しく輝いていた。

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